このページでは糖尿病の治療薬でもあり、メディカルダイエットの主力の薬剤であるリベルサスについて医師としての観点からデータを交えて書いていきます。
リベルサスについて
世界初の経口GLP-1受容体作動薬
リベルサス(一般名:セマグルチド (遺伝子組換え))は2型糖尿病の治療薬として承認されているGLP-1受容体作動薬という種類の薬剤です。2021年2月5日に発売された比較的新しい薬で、世界初、唯一の経口GLP-1受容体作動薬です。
GLP-1とは
GLP-1(Glucagon-like peptide-1)とは、食後に血糖値が上がったときに小腸下部(L細胞)から分泌されるインクレチンと呼ばれるホルモンのひとつです。私たちの身体から分泌されているGLP-1は分泌後に速やかに分解されてしまいますが、GLP-1の分解酵素を阻害して作用が持続するように構造を変化させ創られた薬がGLP-1受容体作動薬です。
SNACにより胃粘膜からの吸収が可能となった
従来、オゼンピック®(セマグルチド)をはじめとしたGLP-1受容体作動薬は注射製剤しかありませんでした。GLP-1受容体作動薬は、アミノ酸が結合したペプチドで分子量が4000程度と大きく、さらには胃液のペプチド分解酵素によって分解されてしまうため、胃粘膜からの吸収が難しいため、経口投与は適しませんでした。しかし、製薬メーカーの研究の結果、吸収促進剤であるSNAC(サルカプロザートナトリウム)300mgを含有することで、胃でのタンパク質分解酵素からセマグルチドを保護し、吸収を促進して、経口投与が実現としました。
飲み方について
1日1回1錠起床時にコップ半分の水(120cc)とともに服用します。服用後少なくとも30分間は絶飲食し、吸収のための時間を設ける必要があります。
吸収促進剤がうまく働くために、このようなルールがあります。詳しくはコチラを参照ください。
2023.08.12
リベルサスの飲み方。必ず守りたい3つのルール
リベルサスはGLP-1受容体作動薬という種類の薬剤で、糖尿病やメディカルダイエットに使用される薬剤です。リベルサスは唯一のGLP-1受容体作...
リベルサスの用量について
リベルサスは3mg・7mg・14mgの3つの用量があります。リベルサスを毎日同じ時間帯に服用することで血中のGLP-1濃度徐々に高め、定常状態(薬が血中に流入する量と、出ていく量が等しい状態)なる頃に作用を発揮します。用量が大きいほど作用が大きい(用量依存性)ので、最小用量から開始し濃度を徐々に高めていきます。つまり、基本的な処方方針として「開始用量の3mgで開始し、副作用がないことを確認して7mgに増量」します。7mgでも効果が不十分な場合に14mgに増量します。
糖尿病の治療として使用する場合は添付文書に記載のとおりに4週間以上投与後に7mgに増量しますが、10日間程度で定常状態になると考えられるため、自費のメディカルダイエットでは10日以降に7mgに増量します。
リベルサスの作用について
リベルサスには血糖降下作用、食欲抑制作用(体重減少)があります。
血糖依存的な血糖降下作用
GLP-1は膵臓のβ細胞上のGLP-1 受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌を促進します。血糖依存的とは、血糖が高い時に限って作用を発揮するという意味です。そのため低血糖を起こしにくい薬剤です。
グルカゴン分泌抑制
その他の作用としては、膵α細胞に結合し、血糖上昇させるホルモンであるグルカゴン分泌を抑制し、血糖上昇を抑制します。
体重減少作用
2型糖尿病患者さんに対して、リベルサスは体重減少作用が証明されています。肥満を伴う糖尿病患者さんに良い適応です。
体重減少の機序
リベルサスによる体重減少作用には以下の機序があると考えられています。
- 視床下部(満腹中枢)に作用し、食欲抑制する
- 胃の蠕動運動を抑制し、食べすぎを防止する
- 褐色脂肪細胞に作用し、代謝アップ
実際の使用感
GLP-1受容体作動薬による治療は、簡単に言うと食後に出る満腹ホルモン(GLP-1)を補充し血中濃度を常に高い状態に保つ治療です。これにより食欲抑制効果が得られます。気持ちの良い満腹感ではなくどちらかというと、食欲が削がれる気持ち悪さに近い感覚です。
以下のような感想が聞かれます。
- 空腹が気にならなくなる
- 少量の食事量で満足するようになる
- 間食をしなくなった
- 飲酒量が減った
食事を目の前にしても、以前ほど「欲しくなくなる」感覚になりますが、実際に食べ始めると美味しく食べられます。しかし、食べても胃に貯まる感じがあり、従来の半分ほどで「もういいかな」と満足するようになります。糖尿病患者で肥満があってつい食べすぎてしまう、そのような人にオススメな治療薬です。
リベルサスのダイエット効果
リベルサスは2型糖尿病患者さんにおいて、体重減少作用があることが科学的に証明されています。その作用機序からは、健常な人においてもダイエット効果は明らかで、自費診療の薬として使用されています。ここではリベルサス承認時のPIONEER試験を例に提示します。
糖尿病患者に対する体重減少作用
※以下に紹介するデータは、主に https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32206477/ を参照し、改変を加えています。
PIONEER1 食事・運動療法のみの2型糖尿病患者
食事・運動療法のみの2型糖尿病患者において、GLP-1受容体作動薬リベルサス単独療法の有効性と安全性をプラセボと比較した試験です。26週時点での体重減少の報告がなされています。3,7,14mgと用量依存的に体重減少作用が認められ、14mgでは有意な体重減少作用を認めています。
PIONEER2 ジャディアンスとの比較
SGLT2阻害薬のひとつ、ジャディアンス25mg との比較です。ジャディアンスは腎臓での糖の再吸収を抑制し、尿に糖質を排出する薬剤で、こちらも体重減少作用が立証されている薬剤です。この試験では、リベルサス 14mgが体重減少作用でジャディアンスを上回る結果となりました。
PIONEER4 ビクトーザとの比較
2型糖尿病患者を対象として、同じGLP-1受容体作動薬で注射製剤であるビクトーザ(リラグルチド)の1.8mg(日本における最大承認用量)とリベルサス 14mgを比較したものです。注射薬よりも経口薬であるリベルサスの方が、体重減少作用において勝る結果となりました。
参考: https://www.carenet.com/news/journal/carenet/48196
まとめです。2型糖尿病を対象とした試験で、リベルサスは2〜4kgは体重減少が期待できます。
リベルサスの副作用について
消化器症状・頭痛
胃腸の動きを抑制する作用がありますので、強く作用してしまうと、お腹が張る感じ、胃のムカムカ、嘔気を生じることがあります。副作用は用量依存性で、3,7,14mgと用量が上がるにつれ出現しやすい特徴があります。タイミングとしては、血中濃度が上昇する際(服用後1時間以内、用量アップ後)に副作用が生じやすくなります。
また他には頭痛や便秘があります。血中濃度が安定すれば、これらの副作用は感じにくくなります
低血糖は極めて稀
前述の通り、血糖が高くないときにはインスリン分泌を促進しないため、単剤では低血糖を起こしにくい(極めて稀な)薬剤です。実際に、日本人の2型糖尿病患者(食事運動療法のみ、もしくはそれに加え経口薬1剤で治療中) 243例を対象とした、リベルサス3,7,14mgととリラグルチド 0.9mg(商品名: ビクトーザ)との比較試験(PIONEER9)では、リベルサスの低血糖は確認されませんでした。
参考URL: PIONEER9 低血糖
単剤使用では低血糖を引き起こすことは稀ですが、他の血糖降下薬を併用した場合はそのリスクは上昇します。
胆石症・胆嚢炎のリスク
リベルサスによって経口薬でGLP-1受容体作動薬の間口が広がったことは良いことなのですが、新たな副作用や注意がなされるようになってきました。それは胆石症・胆嚢炎等のリスクです。
※リベルサスに特有というものではなく、一律でGLP-1アナログの製品に注意喚起されるようになっています
胆石形成が促進される可能性
機序としてはGLP-1受容体作動薬による胆嚢収縮抑制によって胆石形成が促進され、急性胆道系疾患が引き起こされる可能性があるというものです。胆嚢は脂肪の消化・吸収を助ける胆汁を濃縮して貯留しています。胆嚢は元々胆石を形成しやすい背景があります。GLP-1受容体作動薬の作用により、食欲が落ち食事を摂取しない状態が続くと胆汁がうっ滞してしまい胆石形成が促進されると考えられるので、胆汁をうっ滞させないことが大切です。食事を全くとらないような状況は必ず避け、そのような状況に陥ったらGLP-1アナログの使用を中止し、医師に相談しましょう。頻度は不明ですが、胆嚢炎は緊急手術の適応となる重篤な副作用です。
体格やGLP-1に対する感受性は人によって異なるため調整が難しい場合もあります。内臓脂肪が少ない人はリベルサスの3mgでもしっかりと効いてくれますが、体格が大きい人は7mgでも食欲抑制が乏しいこともあります。その調整がウデの見せどころです!
リベルサスによるメディカルダイエットは危険!?
あくまでリベルサスは糖尿病に対して承認を得た薬剤であるため、糖尿病がない方に使用するのは危険?という考えがあります。もちろん医薬品ですので作用・副作用があるので乱用や不適切な使用いけません。しかしGLP-1アナログは海外では肥満症の適応が通っている薬剤で、体重減少作用も立証されています。糖尿病の治療(血糖を下げる効果)だけでなく、腎保護や心血管リスクを減らす効果も立証され幅広く使われ始めています。繰り返しにはなりますが、作用機序からも健康な成人に対しても比較的安全に使用できる薬剤と考えています。嬉しいニュースをお伝えします。リベルサスと同じセマグルチド(一般名)を成分としたGLP-1アナログによる肥満症治療がついに日本でも承認となりました。商品名は「ウゴービ皮下注」です。残念ながら2023年4月現在は、いつから流通するのかなどは不明ですが、近い将来肥満症の有力な治療薬として君臨することでしょう。2023年は肥満症治療の夜明けの年です!
メディカルダイエット、肥満外来をご検討いただけますと幸いです。
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参考:
PIONEER1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31186300/
PIONEER9
PIONEER試験のまとめ
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32206477/