健康診断で指摘される脂質異常症は非常に相談が多い項目です。コレステロール、中性脂肪の異常は冠動脈疾患、脳血管疾患のリスクです。このページでは中性脂肪、コレステロールの異常で治療を考えている方向けに記載します。
中性脂肪、コレステロールが高いと言われた方へ
血中の中性脂肪、もしくはコレステロールが高い状態を「脂質異常症」と言います。中性脂肪、コレステロールの異常があると動脈硬化性疾患(アテローム性脳梗塞、冠動脈疾患)のリスクが増大することがわかっています。
脂質異常症の診断基準
以下に脂質異常症の診断基準を提示します。あなたの脂質異常はどのタイプでしょうか?
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
LDL-コレステロールのリスク
冠動脈疾患のリスク3−4倍
コレステロールの中でも、重要なのはLDL-コレステロール。LDL‐ コレステロールは俗に悪玉コレステロールと呼ばれるものです。LDL-コレステロール ≧ 140 mg/dLを高LDL-コレステロール血症と定義されます。LDL-コレステロール 80 mg/dL未満と比較して、LDL-コレステロール 140 mg/dL以上の発症リスクは冠動脈疾患 2.8倍、心筋梗塞 3.8倍 とされます。1)
また、LDL-コレステロールが高ければ高いほど冠動脈疾患の発症リスクが高いことがわかっています。日本人において血清LDL-コレステロール 80mg/dL から200mg/dLまでの範囲でLDL-コレステロールが30mg/dL 上昇するごとに男性1.3倍、女性1.25倍と冠動脈疾患の発症リスクとLDL-コレステロールの関係にほぼ直線的な正の相関を示すことがわかっています。1)
1) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21371493/
H Imano et al. Low-density lipoprotein cholesterol and risk of coronary heart disease among Japanese men and women: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)
若い人であっても冠動脈疾患の生涯リスクは高い
一生の間に冠動脈疾患を発症する確率(生涯リスク)は、男性ではLDL-コレステロール が160mg/dL 以上だと高まります。下図を御覧ください。
若い人(45歳)であっても高齢者(75歳)と同程度の高リスク(約2人に1人が冠動脈疾患)があります。当院としては、未治療の高LDL-コレステロール血症は動脈硬化性疾患のリスクを高めることは明らかですので、若い人であっても生涯リスクを考慮して治療を検討すべきと考えています。
トリグリセリド中性脂肪のリスク
心血管死亡リスクの増加
アメリカのFramingham study(フラミンガムスタディー)を始めとして、高TG血症は心血管疾患の独立したリスクファクターと明らかになっています。また血清TG値が150mg/dLより高くなるほど心血管死亡リスクは直線的に増加することがわかっています。(図は65歳未満のものに絞って掲載)
下の論文より引用・改変
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20200399/_article/-char/ja/
食後高トリグリセライド血症も要注意!
中性脂肪は食事の影響を受けやすいため、食後のトリグリセライドの評価は難しいとされていましたが、食後TG値が高い人では、心血管疾患の発症が明らかになり、日本人においても非空腹時のTG値でコレステロールと独立して突然死、心筋梗塞、狭心症を増加させることが明らかとなりました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/4/106_702/_pdfより引用・改変
Iso H, et al: Serum triglycerides and risk of coronary heart disease among Japanese men and women. Am J Epidemiol 153: 490―499, 2001.
動脈硬化の代表的な要因で、心血管病のリスクを大幅に上昇させるLDL-コレステロールと中性脂肪。
大きな病気になる前に予防することが大切です
体質による影響もあり、生活習慣の改善だけでは治療が難しいこともしばしばあります。次からは治療について解説していきます。
治療について
コレステロールと中性脂肪
実はコレステロールと中性脂肪は特性が大きく異なります。コレステロールは細胞膜、ステロイドホルモン、胆汁などの材料で肝臓で合成されるものです。食事由来のコレステロールは1〜2割とされます。コレステロールは遺伝的な体質で多い少ないが決まっていることが多く、食事で是正しようとしてもそれほど下がりません。一方、中性脂肪は脂肪細胞に備蓄されるエネルギーの役割があるもので、過食・アルコールで増加します。ですので、中性脂肪を下げるためには摂取カロリーの適正化、アルコール制限が有用です。
LDL-Cコレステロールが高い人
LDL-C(コレステロール)が基準より高いからと言って全員が薬物治療を行うわけではありませんが、併存症やリスクに応じて治療介入を行います。1つの基準としてLDL-Cが180mg/dLを超える方は、併存症がない人でも薬物治療を行います。
悪玉コレステロールを下げる治療薬スタチン
LDL-コレステロールを下げる薬の一つにスタチンがあります。種類によって「○○スタチン」と薬品名は異なりますが、概ねLDL-コレステロールを40-50%下げることが可能です。そしてスタチンによってLDL-コレステロールを下げれば下げるほど冠動脈イベントの発症率が抑えられることが明らかになっています。
下図は治療薬(スタチン)で治療している方のLDL-C値と冠動脈イベントの発症率をまとめたものです。
スタチンにはプラーク退縮効果もあります
この治療薬(スタチン)は動脈硬化のプラークの退縮効果も確認されており、血管サラサラの薬と言っても過言ではありません。なないろクリニックでは、このスタチンという薬を中心に治療計画を立てます。1,2日飲み忘れても構いません。サプリ感覚で良いので続けることが重要です。
LDL-C(コレステロール)に関しては、The lower, the better (低ければ低いほどよい)ということが判明してきており、しっかりと治療を行うことが大切です。
中性脂肪(TG)が高い方
TG ≧ 150mg/dL を高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)と定義され、動脈硬化、心血管疾患、肝機能障害(脂肪肝)、急性膵炎のリスクがあります。
高中性脂肪血症(高TG血症)の治療
中性脂肪においてもリスクを考慮して、薬物治療を開始します。ひとつの目安としては中性脂肪が 500mg/dL以上の場合は急性膵炎のリスクが高くなるため、併存症がない場合であっても治療を開始します。
予約について
脂質異常症はリスク評価が大切です。年齢や基礎疾患によっても変わりますので、異常を指摘されたら必ず医師に相談下さい!
脂質異常症の治療に前向きの方、一度やっていたのに中断した方、良いお薬がありますので、ぜひ治療を開始・継続していただけますようお願いします。
2023.03.29
脂質異常症の種類、リスク、治療について
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