内科

高血圧とは。放置のリスク、正常血圧との違い、高血圧の治療について

高血圧は放置して良いのでしょうか?

放置はオススメできません!
この記事では正常の血圧について、なぜ高血圧の放置が危険で治療が大切なのか、治療を始める方に向けて伝わるように記載していきます。

正常血圧について

上の血圧と下の血圧

一般的に、血圧は心臓が収縮する時の血圧(収縮期血圧 SBP)と心臓が拡張するときの血圧(拡張期血圧 DBP)があります。それぞれを上の血圧、下の血圧と表現することもあります。例えば120/70 mmHg なら上の血圧120が収縮期血圧、下の血圧70が拡張期血圧です。通常、注目されるのは、脳卒中や冠動脈疾患のリスクとなる上の血圧(収縮期血圧)です。

正常な血圧は120/80 mmHg未満

正常血圧とは、診察室血圧で上の血圧が120 mmHg未満 かつ 下の血圧が80mmHg未満 です。(家庭血圧はそれぞれ5 引いた 115/75 以下が正常血圧)

分類 診察室血圧(mmHg) 家庭血圧(mmHg)
収縮期血圧 拡張期血圧 収縮期血圧 拡張期血圧
正常血圧 < 120  かつ  < 80 < 115  かつ  < 75
正常高値血圧 120〜129  かつ  < 80 115〜124 かつ  <75
高値血圧  130〜139  かつ/または 80〜90 125〜134  かつ/または   75〜84

高血圧の定義

一般的に高血圧症140/90mmHg以上です。しかし、それ未満が正常血圧(120/80mmHg未満)というわけではありません。ではなぜ、正常血圧と高血圧との間に、「正常高値血圧、高値血圧」などと紛らわしい定義がなされているのでしょうか?

脳心血管病死のリスクは血圧に比例

その理由は、血圧が 120/80 mmHg より高くなればなるほど脳心血管病死亡リスクが上昇するからです。

日本人の中年、前期高齢者におけるデータをお示しします。(後期高齢者でもほぼ同様の傾向です)

[中年 40〜64歳]

[前期高齢者 64〜74歳]

Fujiyoshi A et al : Blood pressure categories and long-term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women Hypertens Res,35, 9,947-953, 2012

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22739419/

この研究は日本人67,309人(40-89歳)を対象として、平均10.2年を追跡して明らかになった信頼できるデータです。脳心血管病による死亡を予防するためには血圧を正常に保つことの重要であること明らかにしました。驚くべきことに、血圧を正常に保ていたならば予防できた脳心血管病による死亡は、中年では60.9%、前期高齢者では49.3%です。

多臓器障害・慢性心不全でQOL低下

高血圧は動脈硬化の主原因でもあり、腎臓病、眼底出血、大動脈瘤・解離などの多臓器障害を引き起こします。高血圧を放置すると、心臓に負荷がかかり続け、心肥大・慢性心不全に陥る可能性があり、生活の制限・健康寿命の短縮に繋がります。

脳血管性認知症のリスクも増大

高血圧により動脈硬化が進むと脳の小さな動脈の梗塞(ラクナ梗塞)を引き起こし、気づかないうちに小さな脳梗塞が多発していくこともありえます。そして、脳血管性認知症を引き起こすリスクを格段に上げることが判明しています。下の図を御覧ください。

血圧が正常な方が血管性認知症を発症する確率を1.0とすると、高血圧前症は中年期で2.4倍、老年期は3.2倍、ステージ1の中年期は5.9倍、老年期は4.7倍、ステージ2は中年期は10.1倍、老年期は7.3倍と血圧が高ければ高いほど、血管性認知症を発症しやすいという結果が出ています。(神経変性疾患であるアルツハイマー型認知症のリスクは高血圧の有無では変わりません)

参考: 久山町研究から見た認知症の予防

血圧が原因で命を落とす、または後遺症・合併症で苦しむ人を一人でも減らすために高血圧治療は行います。

高血圧の治療の前に

家庭血圧を測りましょう

医療施設や健診の場で測定した血圧を診察室血圧といいます。しかし、診察室血圧は本人の血圧の実態を表しておらず、治療をすぐには必要としない場合もあります。普段の血圧は高くなくても、運動や緊張などで脈が早くなった状態では一時的に高くなることがあるからです。ですので、診察室血圧が140/90mmHg以上の場合は、家庭血圧を測定し本当に高血圧かどうかを確認します。

血圧計は上腕式がおすすめ

血圧計には上腕式と手首カフ式があります。手首カフ式は手首の高さによって血圧が上下するため、毎回の測定条件を揃えて血圧を測定することが難しく、家庭用血圧測定機器としても推奨されません。ご家庭でも上腕式の医用電子血圧計での測定を推奨します。

日々の血圧測定という大切な習慣において、精度は外せません。測定精度が担保されないと

  • 本当は高くて治療すべき人が低く測定され治療機会を逃す
  • 本当は高くない人が高く測定され不安になる

このようなことが生じます。未来のための血圧測定です。手首式ではなく上腕式血圧計を使用しましょう

 

家庭血圧の計測方法

家庭血圧による高血圧診断には「朝・晩、原則2回ずつ測定し、平均値を記録」します。リラックスした状態で血圧を測定しましょう。平均値が135/85mmHg 以上であった場合、高血圧症の診断となります。朝・晩それぞれの平均値 <115/75 mmHgの場合、正常血圧となります。

リラックスした状態である家庭血圧でも平均値が 135/85 mmHg以上の場合は、持続性の高血圧症と診断されます。

朝と夜の2回計測する理由

血圧には日内リズムが存在します。正常では夜間血圧は昼間と比較して10~ 20%低下します。この正常型をdipperと呼び、正常型に当てはまらない(non-dipper、riser)血圧日内リズムの方では脳・心臓 腎臓の臓器障害が強く、脳心血管死亡のリスクが高いことがわかっています。

白衣高血圧でも脳心血管イベントが高い

診察室血圧が高血圧(収縮期血圧 140mmHg以上 または拡張期血圧 90mmHg以上)で、家庭血圧が高血圧ではない(SBP 135mmHg未満かつDBP 85mmHg未満)である場合、白衣高血圧と診断されます。高血圧患者の15〜30%にみられます。白衣高血圧においても、非高血圧者と比べて脳心血管イベントリスクが高く、持続性高血圧への以降リスクが高いことが報告(RR 2.85 CI 2.32-3.49)されています。したがって、白衣高血圧患者に対しても注意深い経過観察が必要です。

まずは生活習慣の是正から

高血圧と診断されたら治療が必要です。しかし、高血圧があるからといって、全ての方が薬物治療を始めるわけではありません。特に中年の方は肥満症の合併が多いので、生活習慣の改善(減塩、減量、運動、節酒)で降圧が期待できます。生活習慣を改善した場合どれぐらい降圧するのでしょうか?それを示したグラフがコチラになります。

高血圧診療ガイド2020 p48より引用

 

減塩、減量、運動、摂取によってそれぞれ、4〜6 mmHgの降圧できます。生活習慣の改善による降圧効果は降圧剤1剤もしくはそれ以上の降圧効果に相当します。

肥満を改善すれば薬がいらなくなるかも

肥満(BMI が25以上)はありませんか?肥満は万病の元です。BMI 20 kg/m2 未満の人の高血圧の発症リスクを1とすると、BMI25.0〜29.9 kg/m2の場合、高血圧発症リスクは1.5〜2.5倍に上昇します。

肥満がある場合は、体重を減らしましょう。体重1.0 kg減少につき、収縮期血圧が約1.1 mmHg 下がると推定されます。これに基づくと10kg 減量すると収縮期血圧で11mmHgの降圧が期待できます。これは降圧剤1剤もしくはそれ以上の効果に相当し、降圧薬が不要になる可能性を秘めています。若いときと比べて10kg以上、太っている方は多いのではないでしょうか。若い時のスタイルをイメージして減量しましょう!

NeterJE,et al. Influence of weight reduction on blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12975389/

 

高血圧の薬物治療

生活習慣の改善だけでは高血圧の改善が難しい方、遺伝的な体質に由来する方、収縮期血圧160mmHg 以上の人は薬物治療を開始します。

薬は基本的に服用し続ける

https://nana.clinic/wp-content/uploads/2023/03/中年男性-300x300.jpg

でも血圧の薬って一生飲まなきゃならないんでしょう?

よく尋ねられる質問です。結論としてはYESです。

高血圧は遺伝的な体質に由来することが多く、加齢性に動脈硬化は進行していくため、一度治療が必要となった高血圧は治療継続を推奨いたします。そして高度な高血圧(当院の目安としては収縮期血圧 160mmHg over)を様子見するのはよろしくないと考えています。どこかのタイミングで早期に治療介入し高血圧治療を開始する方が良いでしょう。高血圧を放置するリスクが大きすぎるからです。

血圧低下のメリット

「健康日本21」では全国民の血圧を 4mmHg下げるだけで、年間1万人程度の脳卒中、5千人程度の心筋梗塞を減らすことができるとされています。これは減塩や減量、運動などを組み合わせることで達成が十分可能な目標と考えられます。

たった4 mmHg下げるだけで多くの国民を救うことができる!国家プロジェクトだね。

降圧薬によって大幅にリスクを減らせる

繰り返し申し上げますが、正常血圧とされる120/80 mmHgを上回るほど脳心血管病のリスクが上がります。逆に言えば、血圧が高い人が降圧薬によって正常血圧に近づけば近づくほどそのリスクは抑えられます。実際に10/5mmHgの血圧が下がるとどれくらいリスクが減るのか下図を御覧ください。

収縮期血圧が10下がるだけで、ここまでリスクが減少します。これは降圧薬1剤でも十分に達成可能な数字です。

血圧サプリは効果なし!?厚労省が承認した降圧剤を推奨します

99.9 %のサプリメントは効きませんもしサプリに本当に血圧を下げる作用があり高血圧の「治療」として有用なのであれば、それは健康補助「食品」ではなく医薬品になっているはずです。あくまでサプリは食品であって医薬品になることはありません。一方、降圧薬は厚生労働省が承認したお墨付きです!サプリよりも圧倒的によく効きます

※サプリメントを購入し使用するのは個人の自由です。サプリメントを買うなとは言いません。でも健康を気にして高いサプリメントを購入するのであれば治療薬のほうが断然オススメできます。

降圧薬はサプリ感覚で続けることが大切

もちろん、降圧薬は医薬品であるため、副作用もあります。しかしその副作用に重篤なものは少なく医師の管理の下であれば安全に使用できることがほとんどです。副作用のデメリットよりも降圧によるメリットがはるかに大きいので、多少語弊があるかもしれませんが、サプリ感覚で降圧薬を続けていただけたらと思います。

治療を始める方に伝えたいこと。来てくれるだけで優等生

健康診断で毎年高いと言われ、放置していた高血圧。「そろそろ始めなきゃな…」という患者さんはたくさんいると感じています。高いハードルを超えてクリニックに来院してくれた患者さんを当院は大切にしたいと考えています。来院してくださってる時点で治療への気持ちが0ではありません、その気持ちが大切なのです。そもそもの話ですが血圧治療のために病院に来てくれるだけで優等生なのです。治療する気がない人は、このページを開かないでしょうし開いてもすぐに引き返します。少なくともこの長文を読み終わったあなたは超優秀です。

高血圧治療を始める際には、高血圧を放置するリスクを前面に伝えられがちです(時には「医者に脅された」とおっしゃるかたも)。長く続ける治療だからこそ、前向きに治療を続けていただきたいと考えています。当院ではなくて結構です。まずは信頼できる医院にご相談ください。