痛風について
痛風とは、関節に付着した尿酸の結晶(尿酸ナトリウム1水和物 MSU)が剥がれることで生じる激しい関節炎です。日本人の痛風発症年齢は30~40歳代で、発症部位の多くは足の親指の付け根の関節ですが、その他足関節、膝、手指、肘などに生じることもあります。痛風発作は再発を繰り返すため適切な治療を行うことが重要です。
痛風の原因
高尿酸血症が持続することで関節面に尿酸の結晶が析出します。血清尿酸値 7.0mg/dLを超えると溶解しきれない尿酸が結晶となり析出します。
(引用: セミナー生活習慣病)
実際の結晶写真です。痛風の場合、関節内の結晶が問題となります。ある拍子にその結晶が剥がれ落ち沈着すると、これを異物として反応した白血球やマクロファージなどの浸潤が起こり、急性の激しい炎症(痛風)を引き起こします。
(引用: セミナー生活習慣病)
痛風発作が起きやすいタイミング
付着した尿酸結晶の一部は関節面から剥がれ落ちる原因として、 一番多いのは急な運動後です。 一般的に足先の小関節は体温が低いことに加えて、関節の動きが激しい部分でもあり、運動は物理的に古い尿酸結晶一部剥がれてしまうため、急な運動後に発作が起こりやすいと言われています。ただ適度な運動は痛風発作のリスクを下げる因子です
痛風発作のリスク
痛風発作の発症リスクには、男性(女性の7倍といわれる)、飲酒(特にビール)、肉類・魚介類の摂取、肥満との関連が指摘されています。
男性に圧倒的に多い痛風
痛風患者数は増加傾向にあり、圧倒的に男性患者に多く、推定患者総数は100万人を超えています。
肥満度が高いほど痛風発作のリスクが高い
ある研究(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33231639/)では、BMI30以上の人は、BMI23以下の人たちと比較して痛風発作のリスクが2.65倍という結果でした。
飲酒量が多ければ多いほど発作のリスクが高い
飲酒も同様に飲酒量に比例して、リスクが高くなる傾向があります。
高尿酸血症と痛風のリスク
血清尿酸値が高くなればなるほど、累積での発症率は高くなります。
参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15188314/
引用:https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0052/G0000210/0011
痛風の治療・予防について
痛風の治療は、発作があるときと、発作が治まったときに分けられます。発作が起きているときは解熱鎮痛剤であるナイキサンに加え、発作寛解・予防薬であるコルヒチンを併用します。発作が治まったあとは高尿酸血症の治療を行い、コルヒチンの予防投与をしばらく行います。
痛風発作の治療経過
痛風発作は解熱鎮痛剤等で炎症を抑える治療を行います。発作の前兆期にはコルヒチン、発作が起きてからは解熱鎮痛剤(NSAIDs)を使用します。それでも痛みが強い期間は2〜3日程度あり、疼痛が治まるまでは10日前後かかります。
発作予防としての高尿酸血症の治療
痛風の治療で大切なのは発作の予防です。痛風発作の予防には、高尿酸血症の治療が大切となります。発作時に用いたコルヒチンは、発作予兆期に使用することが出来きます。
風風の治療は痛みが治まったら終わりではありません。
高尿酸血症の治療開始基準
高尿酸血症の治療開始に関してはガイドラインが存在し、
- 痛風発作あるいは痛風結節がある
- 血清尿酸値が8.0mg/dL以上で腎障害などの合併症がある
- 血清尿酸値が 9.0mg/dL以上
これらの該当する場合は、薬物治療を行います。すなわち、痛風発作歴のある高尿酸血症は治療が推奨されます。
ガイドラインは一番重要な治療の指針となるものですが、治療開始の判断は個別に行います。特に無症候性高尿酸血症(痛風発作のない人)への治療介入は、総合的な判断になります。
血清尿酸値の目標と対策
治療の目標値は血清尿酸値 6.0mg/dL以下です。まずは高尿酸血症の原因となっている生活習慣や肥満が無いかを確認し、生活習慣の見直しから始めましょう。肥満がある方はまずは痩せること、飲酒量が多い人は飲酒量を減らすことからスタートしましょう。当院ではInBodyという医療用の体成分分析を導入していますので、隠れ肥満をあぶり出すことも可能です。
高尿酸血症について
血清尿酸値が 7 mg/dL 以上の状態をさします。血清の尿酸濃度が一定の濃度以上に持続する状態が高尿酸血症で、高尿酸血症の発生頻度は男性は20女性は5%と言われています。
高尿酸血症は併発症も多い
高尿酸血症の患者さんは約80%には高血圧、肥満、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病を合併しており、脳梗塞、虚血性心疾患などの合併症の発症率を高めていると考えられているため、放置は望ましくありません。
末期腎不全のリスク
高尿酸血症を放置していて一番怖いのは、腎障害です。尿酸の結晶が生じるのは関節面(痛風)だけではありません、高尿酸血症では尿酸の結晶が腎臓に蓄積します(痛風腎)。結晶の蓄積で、腎機能が徐々に低下すると慢性腎不全という状態になり、さらも腎機能障害が進行すると、末期腎不全という人工透析が必要な状態に至ります。
ここでひとつの研究結果を紹介します。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15384015/
1993年の集団健診の血清尿酸のデータが得られた20歳以上の48,177人の受診者(男性22,949人、女性25,228人)を対象とした研究で、末期腎不全の発症リスクに対する高尿酸血症(男性で血清尿酸値 7.0 mg/dL [> or = 416 micromol/L] 、女性で 6.0 mg/dL [> or = 357 micromol/L] )が有意かどうか評価したものです。高尿酸血症の有無で、1000人あたりの末期腎不全の発症人数は、男性では血清尿酸値 7mg/dL未満の人では1.22人だったのに対し、血清尿酸値が7 mg/dL以上の集団では4.64 人、女性では血清尿酸値 6 mg/dL未満の人では0.87人だったのに対し、血清尿酸値が6 mg/dL以上の集団では9.03 人でした。
ざっくりと結果を伝えると、男性では血清尿酸値が7mg/dL以上だと、末期腎不全のリスクが2倍になり、女性で血清尿酸値が 6mg/dL以上だとリスクが5.77倍になるということです。
高尿酸血症の定義は「血清尿酸値が7mg/dL 以上」です。女性ではそれを下回る、6 mg/dLでも腎障害のリスクがあることは少し驚きです。
生活習慣改善のポイント
生活習慣で高尿酸血症を治療するにあたって、大切なポイントは3つです。
- 肥満を是正し、標準的な体重(BMI 22)を維持すること
- アルコール(特にビール)の摂取を控えること
- プリン体を多く含む食品の過剰摂取をしないこと
痛風・高尿酸血症のリスクとなることを行わないことですね。
アルコールに含まれるプリン体量
下図は アルコール飲料100mL中に含まれるプリン体量です。 ウイスキー、ブランデー、焼酎などは蒸留酒はほとんど プリン体を含まない、一方ビールは麦芽中のプリン体が多く含まれるため、他のアルコール飲より明らかに多いのが特徴です。
しかし、 プリン体量の多い少ないにかかわらず、習慣的な過剰飲酒は肝臓におけるプリン体代謝を促進します。尿酸値が高い方は、プリン体OFFのものを選択する、または飲酒量が過剰になっていないかをご確認ください。
プリン体を多く含む食品
魚は健康的なイメージがありますが、プリン体は肉類のみならず、魚介類もプリン体の含有量は多いです。食物由来のプリン体は、核酸合成に利用されることはあまりなく、大半は肝臓で尿酸に代謝されるため、食物由来プリン体の過剰摂取は尿酸産生の増加につながりやすいため注意が必要です。
尿酸・プリン体は体質的に高い人がいる
尿酸は、プリン体が肝臓で代謝されて生じた物質で、腎臓から尿中に排泄される老廃物の1種です。英語ではuric acid(UA と略される)と呼ばれ、文字通り uric(尿の) acid(酸性物質)です。プリン体(プリン塩基)とは、遺伝子を構成する核酸(DNAやRNA)や遊離ヌクレオシド(ATPなど)の構成要素であり、人体には必須のものです。生体は絶えず新陳代謝をしているため、細胞分裂と古い細胞の崩壊(アポトーシス)を繰り返しており、その過程で核酸や遊離ヌクレオシドの合成・分解が行われています。生体内のプリン体には自身の細胞由来のヌクレオチドが分解されて生じたものと、食物由来のものが混じっています。つまり、プリン体の一部は食べ物から流入しますが、大部分は生体内で合成したり、再利用しています。つまり、遺伝的な体質で元々の尿酸値が高い人もいます。「食事・運動療法を完璧に行ったとしても、体質的に尿酸値が高い人がいる」という認識が大切です。
(引用: セミナー生活習慣病)
痛風・高尿酸血症の治療を
痛風発作の既往がある方は、発作予防のため速やかに高尿酸血症の治療を開始しましょう。
痛風発作の既往の有無に関わらず全員に言えることは生活習慣の改善です。まずはプリン体を多く含む食事の見直し、アルコール(特にビール)を控えましょう。肥満があるのであれば痩せましょう。痛風歴のない無症候性高尿酸血症でも、やはり高すぎる場合や併発症がある場合は無治療はよろしくありません。まずは生活改善を試みて、3ヶ月経過しても改善が難しい場合は、遺伝的な体質で元々尿酸値が高めな人である可能性があり、速やかに薬物治療に移行しましょう。今は、腎臓が悪い方にも使用できる薬も出てきています。信頼できる医師・医療機関にご相談ください。
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