健康診断で貧血を認めたら
健康診断はあくまで、病気が隠れているかもしれない異常値を拾い上げ、早期発見・早期治療につながるための取り組みです。若い方から、高齢に近い方まで幅広い年代の方が、受診されます。貧血は指摘されることが多い健診異常です。症状がない場合は、様子を見ていて良いのでしょうか?
答えは…貧血の種類、程度にもよりますが、一度病院受診を推奨します。
診察して、検査してみて貧血の当たりをつけないと無責任なことは言えません。しかし、それではおもしろくありませんので、少しだけ詳しく記載していきます。
貧血の異常は、特に年齢層や性別が重要ですので、次の2つに分けていきます。
1. 男性や更年期以降の女性
2. 妊娠可能な女性
2. は、月経が周期的にある女性のことです。その年代の女性は月経(子宮内膜が剥がれ落ちる生理現象)の際に、血液も失います。過多月経による鉄欠乏性貧血がメジャーです。月経による慢性的な出血で、ヘモグロビンの材料である鉄が欠乏し、鉄欠乏性貧血をきたします。注意すべきは、それ以外の1. の方々(男性や更年期以降の女性)の貧血です。
1. 男性や更年期以降の女性
前述のとおり、月経を伴わない貧血には早期治療をすべき疾患が隠れていることがあります。
貧血の原因になりうる疾患
ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、アルコール性、骨髄性疾患(再生不良性貧血、MDS)、白血病、消化管出血、慢性腎不全などがあります。
消化管精査や婦人科受診が必要
頻度として多いのは、消化管からの出血です。消化管由来の慢性出血の原因として、胃潰瘍や大腸がんなどの疾患が代表的であるため、説明のつかない貧血を認めた場合は、消化管出血の検索が必要です。特に男性が鉄欠乏性貧血を呈する場合は、単に鉄剤の補充で済ますことはできませんので、内視鏡検査ができる施設での精査をお勧めします。
女性では、更年期以降に性器出血を認めた場合、不正性器出血となり、背景に子宮頸がん、子宮体がんなどがある場合もありますので、更年期以降の女性、明らかに貧血が進行した月経異常のない女性では、消化管精査と合わせて婦人科受診を推奨します。
更年期の女性でも月経由来の貧血であるかもしれない
更年期だからといって、貧血の原因に月経の関与がないわけではありません。若い時から貧血を指摘されていても、特に治療せず貧血が改善しないまま更年期を迎えるケースもあります。そのような昔からの鉄欠乏性貧血もありえます。逆に、月経がある女性で、特に月経量に変化もないにも関わらず、貧血が急に進行した場合などは、月経以外の原因を考慮する必要があります。
2. 妊娠可能な女性の貧血
多くは月経に伴う出血で、鉄欠乏性貧血が代表的です。毎周期の月経で、血液を失い徐々にヘモグロビンの材料となる鉄が体の中から足りなくなってしまい、貧血になります。
貧血の症状
貧血はそもそも血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが少なくなった状態です。ヘモグロビンは血流に乗って酸素を運搬するタンパクです。鉄欠乏性貧血が進行すると、息切れ、めまい、ふらつき、倦怠感などをきたします。以前は、何ともなかった階段の上り下りで息が切れるようになった、同じ仕事量でも疲れやすくなったなどの自覚症状が出ます。貧血自体が徐々に進行していくため、息切れなどの酸素不足に由来する症状は進行するまで自覚できない場合あります。この状態を放置しておくことは、よろしくありません。酸素の運搬役であるヘモグロビンが少なくなったことで、同じ酸素量を必要とする活動に対して、1回の酸素運動量が少なるため、頻回に心臓が拍出する必要があります。結果、頻脈になります。その心臓が頑張りすぎてしまい、疲れて体の期待に応えられなくなると心不全を呈します。
月経量が多くないか
問診で月経量が多くないかを確認します。
~月経量が多いかどうかのチェックリスト~
- 凝血塊があるかどうか
- 多い日が3日以上ある
- 7日以上継続
- 月経痛が強い(鎮痛薬を3日以上使用)
- 1時間ごとにナプキンを変える
- 漏れたことがある
上記に当てはまるものがあれば、過多月経による鉄欠乏性貧血が疑わしくなります。
フェリチンを計測します
月経のある女性で貧血を指摘されたら、鉄欠乏性貧血を疑いフェリチンを計測します。フェリチンは貯蔵鉄と言われ、私たちの体内で鉄を蓄えるためのタンパク質の一種です。体内の鉄分の調節に関与しています。
フェリチンが欠乏していると鉄欠乏性貧血
妊娠可能年齢の女性の貧血は、フェリチン ≦ 12 ng/ml(特異度 99%、感度 59%)で鉄欠乏性貧血と診断します。
鉄欠乏性貧血に特徴的な症状
鉄欠乏性貧血に特徴的な症状として、爪の非薄化、異食症(氷、砂、ガリガリしたもの)があります。このような症状も鉄欠乏性貧血らしさを示唆します。
月経のある女性の鉄欠乏性貧血の治療
鉄剤の内服治療を行います。
食事で鉄分を補いたい気持ちがあるかもしれませんが、食事療法では鉄欠乏の改善には及ばないことが多いです。鉄剤は1剤で 鉄を50mg含有しますが、鉄分を多く含むと言われるレバーであっても鉄 6.5mgの含有量です。貧血のない一般成人の鉄の必要量が、男性10mg、女性 20mgですので、鉄欠乏性貧血の治療には鉄剤の内服治療(1日 50~200mg)を推奨します。
貧血の症状は速やかに解消するが治療は続けましょう
貧血の症状である、息切れ、倦怠感や、鉄欠乏性貧血の特徴的な症状の異食症は比較的速やかに改善していきます。材料となる鉄剤が満たされたことで、不足していたヘモグロビンが作られた結果、症状も良くなります。ただし、貧血の改善、特にフェリチンの正常化を確認するまでは内服治療を継続します。
婦人科受診をしたことがない方は一度受診をお勧めします
貧血(Hb 値)も改善し、症状も消失、フェリチン(貯蔵鉄)も正常化した!
これで晴れて治療修了!といいたいところですが、これで服薬をやめて様子を見てよい方と、鉄剤内服を検討すべき方がいます。過多月経の原因となるような子宮筋腫などがあれば、また鉄欠乏性貧血に陥る可能性があるからです。鉄欠乏性貧血の診断と治療は内科で良くても、過多月経の原因となる子宮筋腫などの疾患がないか一度婦人科で精査を受けてください。