「血圧の薬は、一生飲み続けなければいけないんですか?」
高血圧の薬を始めるにあたって、よく聞かれる質問です。結論からお伝えすると、「必ず一生飲み続けなければならない」というわけではありませんが、長期間続ける方が多いです。
一方、「一生薬に頼るなんて…」「症状がないのに薬飲む必要がある?」「運動と生活習慣でなんとかならないのか?」と思うのは、とても自然な感情です。
数分で良いので私に時間をください。我々がなぜ高血圧治療をするのかを理解できれば、疑問を持ちながら治療を続けるよりも良いはずです。
この記事ではなぜ薬を飲み続けるのか?、薬を止められるケースとは具体的にどのような場合かなど、患者さん目線でわかりやすくお話しします。
なぜ薬を飲み続けるかの極論
(この段落ではあえてくだけた言葉で書いています)
なぜ薬を飲み続けるべきなのか?
結論:高血圧を放置すると死ぬから
です。誇張ではありません。基本的に私は患者さんを脅したりしないのですが、「あなた、このままだと死ぬよ」と言う場面が稀にあります。
患者側が処方に同意しないことで、治療がスムーズに始められないケースがたまにあります。高血圧に対する捉え方が医師側と患者側で異なるせいだと思うんですよね。
飲みたくない患者とのワンシーン
血圧が200超えていて、「危険な状態なので今日から降圧薬を開始しましょう」と言ってもですよ
「今日はたまたま高いだけ」
とか言う人いるんです。ちなみに血圧200超えは、かなりやばいです。
私「いやいや、めちゃくちゃ高いですよ」
…と正常な血圧と比べて、今の血圧がどれくらい高いのか、なぜ高血圧が危険なのか、内服薬を始めるべきか?など医学的な観点からわかりやすく伝えます。お察しの通り、そういう人にコンコンと説明しても全然響きません。
最初にも書いた通り「薬に抵抗がある」などは自然な感情なので、まずは食事・運動療法から開始することも良いですし、尊重したいと思います。
でも高血圧の治療をするつもりもなく、持論を言うだけで、しまいには医学を否定するようなことを言って帰る人もいます。
- 血管を無理に広げるから逆に詰まりやすい
- テレビで血圧の薬は危険と言っていた
- 友人が飲むなと言っていた
という謎の持論を展開して、それを聞くという無駄な時間が流れることもあります。
何のために、病院に来たのかと?
そう思わずにはいられません。ああ、この人は治療するつもりは無いんだなと判断すると、私はこう言います。
別に〇〇さんの血圧が良くなろうと、私にメリットはありません。治療する気がないときに、無理に薬を飲ませても続かないので、飲まなくても結構です。でも、そんなに高い血圧を放置すると…死にますよ。治療したくなったらまた来てください。
治療する意思がない人を無理に治療できませんが、脳卒中死亡を減らす有効な薬がある以上、私たちは治療を推奨しなければなりません。
症状が出たときには、脳卒中で逝ってしまうかもしれません。症状が出てからでは遅いのです。
なぜ症状がないのに飲み続けるのか?
血圧をコントロールする予防薬
繰り返しお伝えしたいのは高血圧の薬は症状を取り除くような治療薬ではなく、「予防薬」ということです。高血圧の治療は、高血圧自体を治すものではなく、血圧をコントロールするタイプの治療(降圧薬)です。
予防の薬なので、薬で血圧が下がっても止めるようなことはしません。むしろ血圧が下がってからが勝負です。この医師側と患者側の認識の違いが「症状がないのに飲み続けるのか?」につながります。
認識の違いを表にすると以下のようになります。
| 医師 | 患者 | |
|---|---|---|
| 目的 | 脳卒中・心筋梗塞予防 | 症状を取り除く |
| 効果 | 血圧をコントロール | 高血圧を治す |
| 認識 | 目標血圧を維持が大事 服用を続けることが基本 リスクが高い人に処方する 高くなったら早めに飲む |
血圧が下がったら薬を止められる 生活習慣の修正頑張れば薬は不要 血圧は下げられる 症状が出るなら飲む |
実は、高血圧治療で一番大切なことは下げることよりも続けることなんです。
高血圧な時点で動脈硬化が進行している
高血圧は動脈硬や様々な合併症のリスクになるのはご存知かと思います。その逆も然りで、高血圧の原因は動脈硬化由来がほとんどです。本態性高血圧症といい、明らかな原因がなく、加齢・体質による動脈硬化が進行した結果、高血圧になったということです。つまり、高血圧な状態になったときには既に動脈硬化は一定以上進んでいると考えてよいです。
動脈硬化が進行した結果、本態性高血圧症になっている。高血圧は動脈硬化を更に悪化させる。
ここも勘違いされやすい点ですが、高血圧になっている段階で既にリスクが高い状況なんです。(家族歴の有無や、その他の併発症、年齢、性別などでリスクを最終的に判断します。)
だから、治療を見送れば見送るほど更にリスクが高まるので、様子をみずに早めに治療介入したいというのが医療者側の本音です。
高血圧は放置厳禁です。
サイレントキラー(静かなる殺人者):脳卒中による死亡リスク
高血圧は脳卒中・心筋梗塞による死亡リスクを大幅に増加させることが証明されています。たとえ、高血圧自体は症状がなくても、血圧が高くなればなるほど死亡リスクが高くなります。血圧 180/110 mmHg以上では、血圧が正常な人と比べ約 9 倍の死亡リスクがあります。
日本人の中年、前期高齢者におけるデータをお示しします。(後期高齢者でもほぼ同様の傾向です)
[中年 40〜64歳]
[前期高齢者 64〜74歳]

Fujiyoshi A et al : Blood pressure categories and long-term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women Hypertens Res,35, 9,947-953, 2012
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22739419/
血圧を正常に保てていたならば、脳心血管死亡の50−60%は防げていたと言われています。
薬を減らしたり、やめたりできるケース
冒頭でも「必ず飲み続けなければならないものではない」と書きました。実際に当院でも、以下のような患者さんで薬の減量・中止に成功した例があるので、紹介します。
- 体重をしっかり減量できた方(特に肥満がある場合)
- 減塩を徹底し、食事習慣を見直せた方
- 適度な運動(散歩など)を継続できた方
- 元々の高血圧が比較的軽度だった方
- 若い人(動脈硬化の影響が少ない)
特に生活習慣の改善をしっかり行うと、血圧が目標値(家庭血圧130/80mmHg未満など)を安定して維持できるようになり、薬を減らせる可能性が出てきます。
高血圧の治療を始めて健康意識が芽生える人がいます。悪化の原因(肥満、食塩、運動不足、飲酒など)を取り除き、血圧が下がったことを診察時に確認します。
どれくらい改善するのか?
生活習慣を改善した場合どれぐらい降圧するのでしょうか?それを示したグラフがコチラになります。

減塩、減量、運動、節酒によってそれぞれ、4〜6 mmHgの降圧が期待できます。それぞれを組み合わせれば降圧剤1剤もしくはそれ以上の降圧効果が期待できるため、薬剤が不要になる可能性を秘めています。
体重が1kg減ると血圧も1下がる
科学的なデータよると、体重1.0 kg減少につき、収縮期血圧が約1.1 mmHg 下がると推定されます。これに基づくと10kg 減量すると収縮期血圧で11mmHgの降圧が期待できます。これは降圧剤1剤もしくはそれ以上の効果に相当します。

NeterJE,et al. Influence of weight reduction on blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12975389/
実際どれくらいの人が薬を止めれる?
実際にどれくらいの人が生活習慣の是正のみで薬が不要になるのでしょうか?
私の体感上は5%未満(20人に1人もいない)です。
この結果を努力不足だからと捉えないでください。高血圧になった多くの人が、動脈硬化が一定以上進行した結果なので、本人の努力だけでは血圧が十分に下げられないことは致し方ないとも思います。年齢が上がれば動脈硬化が進行するのは避けれないので、体質だと思って服用を続けるのがベターです。
血圧の薬が不要になる人のほうが稀なのです。
どういった人が薬が不要になるのか、思い出深い一つの症例を紹介します。
実際の卒業症例ー血圧176/121mmHgからの変貌
50歳代女性の高血圧の症例を紹介します。数年前から高血圧を指摘されていましたが、健康診断で2度高血圧(166/113mmHg)を指摘され来院されました。
初診時の血圧176/121 mmHgととても高く、すぐに降圧剤内服を開始しました。その後、薬剤調整を行い、家庭血圧は目標血圧(130/80mmHg )未満を達成しましたが、受診以降、健康意識に芽生え食事を見直しダイエットを始めました。体重が減るにつれて、血圧がどんどん改善し、最終的には薬が不要になったので、また血圧が高くなったら受診してくださいと伝え一旦卒業になりました。実際の体重推移です。

体重推移
薬が不要になるまでの体重変化は79.5kgから74.7kgなので-4.8kgの体重減少でも大きな効果が得られました。ちなみに、体重の3〜5%減量でも効果が出ると言われます。
通院をやめてからも食事に気をつけてがんばっていた、ということで顔を見せに約1年半後の2025年5月にも再診してくださいました。体重は更に11kg減っていました。血圧は正常のままだったので、そのまま薬を使用せず高くなったらまた来てくださいとなりました。
まとめ
- 高血圧の薬は良好な血圧を維持するための薬(降圧薬)です。
- 多くの方が血圧をコントロールするために服用を続けます
- 脳卒中・心筋梗塞による死亡リスクがとても高くなるので、高血圧は放置厳禁
- 加齢・体質、動脈硬化由来の高血圧の場合、様子をみると更に悪化します
- 大きく太っている若い方や軽度の高血圧の方は生活習慣の改善で減量・中止できる可能性はあります
- 高血圧の薬は目標血圧を維持して脳卒中などを予防するために服用します。
- 血圧を下げることよりも服用を続ける(血圧を維持する)ことが重要です
- 血圧の薬が効果が現れるのには時間がかかります。自己判断で止めないようにしましょう。
血圧の薬は予防の薬です。良好な血圧を維持し続けることが大切です。脳卒中を予防できる薬があるのなら、飲まない手はないかと思います。それも保険適応で月々の負担がとても軽く服用できます。日本は恵まれた医療制度を有しています。ぜひ、この恵まれた医療を享受しながら人生を謳歌してほしいと思います。
ここまで読んだ人の中で、降圧薬断固拒否の人はいないかと思います。しかし、世の中には少数ながらもそういった医者の意見であっても、聞き入れない頑固な人もいます。血管も生き方同様カチコチになって詰まって◯んでしまうかも知れませんが、それも人生です。私には救えない民です。
自分の力が及ばないことにいくら注力しても結果は変わりません。
この記事を読んで、一人でも多くの日本人が前向きに血圧の薬を飲み続けてくれたらいいなと思います。
