不眠症

ボルズィ(ボルノレキサント)の効果、副作用について解説

「ボルズィ」は2025年11月27日に発売となった新しい不眠症の治療薬です。依存性がない比較的新しい薬である、オレキシン受容体拮抗薬に属する薬で、消失半減期が短いことから、不眠症治療薬の課題の1つである「投与翌日の持ち越し効果」の懸念が少ないことが最大の特徴です。また最高血漿濃度に到達する時間も比較的速く、「速く効き、持ち越さない」かつ「特徴で期待される新しい薬です。

このページではボルズィの効果、副作用、これまでの薬との違いについて解説していきます。

新薬のため、1年間は長期処方が制限されます。上限14日の処方制限です。

ボルズィ(ボルノレキサント)とは

「ボルズィ」(一般名:ボルノレキサント)はオレキシン受容体(OX1およびOX2受容体)に対して選択的に作用するオレキシン受容体拮抗薬で、入眠困難および睡眠維持困難の改善を認めます。

機序:覚醒ホルモン(オレキシン)の受容体をブロック

ボルズィが作用するオレキシン神経系には正常な睡眠覚醒パターンの維持・制御に関わっており、オレキシンは「覚醒」に関するホルモンです。ボルズィは、オレキシンがオレキシン受容体に結合するのを競合的に阻害することで、覚醒から睡眠に移行させます。

入眠時間の短縮、睡眠効率の改善

大正製薬の第III相試験(301試験:プラセボ対照、2週間投与)では、5mg・10mg群で主観的睡眠潜時(入眠時間)が有意に短縮(p<0.001)。主観的睡眠効率も向上しました。また、長期試験(302試験:52週間)で効果が持続し、忍容性良好。他のオレキシン系薬と同様に依存リスクは低いとされています。

用法用量、服用タイミング

通常、成人にはボルノレキサントとして1日1回 5mgを就寝直前に経口投与し、適宜増減しますが、1日1回 10mgが最大量です。規格は2.5mg、5mg、10mgの3種類です。

医師の判断になりますが、2.5mgから処方する場合もあります。

就寝直前に服用します。また、服用して就寝した後、睡眠途中で一時的に起床して 仕事等で活動する可能性があるときは服用しないようにしましょう。

ボルズィ 5mgには割線がある

2.5mg、10mgにはありませんが、ボルズィの5mgには割線があります。これは処方側からすると意外と便利です。指導により用量を微調整(※)できるからです。つまり、5mgを割って服用すれば2.5mg相当、2錠服用すれば10mg相当で服用できます。(※自己判断で用量を調節しないようにし、必ず医師の指示量に従ってください)

服用に当たって気をつけるべきこと

  • 就寝直前に服用しましょう
  • 食事と同時または食直後の服用は避けましょう。
  • 翌日に眠気が残る場合があります
  • 眠気が残る場合は自動車の運転等を控えましょう
  • アルコールとの併用は控えましょう

食事の影響を受けます

吸収に食事の影響(tmax 中央値が食事により1時間遅延)を受けます。食事と同時又は食直後の服用は避けてください。

就寝直前に服用しましょう

ボルズィは最高血漿濃度到達時間(tmax)が0.5時間で、消失半減期は(t1/2)は2.13時間です。わかりやすく言うと「速く効き、体に残りにくい」薬物動態です。

「半減期が短い」というのはボルズィの最大の特徴です。以下に、ボルズィの承認時の薬物動態データを紹介します。

【対象】日本人健康成人男性12例
【方法】ボルズィ 10mgを空腹時(10時間以上の絶食後)に単回投与

用量 tmax(h) t1/2(h)
10mg
(12例)
0.500(0.500,3.00) 2.13±0.185

参考: https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071820

tmaxは参考程度に考えるのが良いかも

tmax(ピーク)まで0.5時間すなわち30分というと、他のオレキシン受容体拮抗薬と比較して、速く効く印象を受けます。(参考:デエビゴのtmax は1.5h程度)

しかし、このデータでは「10時間絶食」という非現実的な状況です。24時に服用したとすると、14時から絶食。普通は夕ご飯を抜くことはないですし、試験と現実の服用方法では背景が少し異なることを加味して考えましょう。

実際に、1日1回7日間の反復投与した場合のtmaxは 1日目 1.50(1.50,2.00)、7日目1.75(0.750,2.00) でしたので、デエビゴとほぼ同じです。

数日間2.5mgを服用してみました。個人的な使用感で言うと、効き始めるまでの時間も、翌朝の残り具合もデエビゴ2.5mgと大差ない印象を受けました。※効果には個人差があります。

翌朝に持ち越す場合があります

半減期が短い特徴があるボルズィですが、それでも翌朝まで効果が持ち越す場合があります。これボルズィに限ったことではなく、不眠症治療薬全般で起こり得る事象です。また他の不眠症治療薬との併用したときの有効性及び安全性は確立されていません。併用は避けましょう。

眠気等が現れた場合は運転をしない

確かに、従来のオレキシン受容体と比較して、消失半減期が少なく「投与翌日の持ち越し効果」の懸念が少ない特徴があっても、本剤の投与により眠気や注意力の低下等があらわれる可能性があります。翌朝以降に自動車運転等危険を伴う機械を操作する際には、本剤投与後の経過時間にかかわらず、十分注意する必要があります。眠気等があらわれた場合には、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作に従事しないようにしましょう。

運転に関する違い

オレキシン受容体拮抗薬はベルソムラ、デエビゴ、クービビックとありますが、ボルズィはこれらと「自動車の運転等危険を伴う機会の操作について」少し違いがあります。

デエビゴ他 ボルズィ
従事しないこと 適否を慎重に判断し、十分な注意が必要であることを適切に指導。眠気が出た場合は、従事しないように指導。

従来のオレキシン受容体拮抗薬は「従事しないこと」とされていましたが、ボルズィでは「眠気等が現れた場合は」と緩和をされた表現となっています。

このような違いから、日常的に運転する場合には、ボルズィのほうが適しているかもしれません。しかし、このあたりは個人差や生活スタイルも影響するでしょう。半減期と持ち越しは直接的に関係がない場合もあります。朝になってオレキシンの分泌が活発になれば、薬効が薄れて眠気が全く残らない人もいるでしょう。実際に、デエビゴの半減期は約50時間ほどでボルズィの約23倍もありますが、23倍長く効くわけでもありません。このあたりは薬物動態の難しいところです。

副作用

傾眠

傾眠が3〜5%の頻度で確認されています。

悪夢

悪夢を1〜3%の頻度で認めます。ボルズィに限った話ではなく、オレキシン受容体に特徴的な副作用です。覚醒ホルモンをブロックしに自然な睡眠に傾けることで、REM睡眠が増えます。REM睡眠が増えると夢を見やすくなります。 では「悪夢」のみが増えるかと言うと、そうとも限りません。悪夢が印象に残ってるだけで、夢全般見やすくなるのではないかと考えています。

ですので、オレキシン受容体(デエビゴ、ボルズィなど)を処方するときは、「悪夢を見る副作用があります」と伝えるのではなく、私個人としては「夢を見やすくなります」程度にお伝えしています。

 私の主観ですが、オレキシン受容体拮抗薬を飲むと、ほぼ毎回夢を見ます。たまーに嫌な夢も見ますが、良い夢もたくさん見ます。最近は、私が大好きなバンドグループ「BUMP OF CHICKEN」に会う夢も良くみます。ボーカルの藤原基央さんと話したり、サインを貰ったりして最高の夢です。(興奮とともに目覚め、失望しますが)

睡眠麻痺

俗に言う金縛りです。オレキシン受容体では、共通して注意喚起される事象ですが、本剤との因果関係は十分には示されていません。発生頻度としては、0.5%〜1.1%の頻度で報告されています。

併用禁忌

本剤に対し過敏症の既往歴がある患者

イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル含有製剤、 エンシトレルビル フマル酸、コビシスタット含有製剤、セリチニブを投与中の患者

(エリスロマイシンは併用注意)

  • 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
  • 妊婦・授乳婦
  • 小児
  • ナルコレプシーのある患者

詳細は、添付文書を参照ください。