高尿酸血症について
Q. そもそも尿酸ってなんですか?
尿酸は、プリン体が肝臓で代謝されて生じた物質で、腎臓から尿中に排泄される老廃物の1種です。英語ではuric acid(UA と略される)と呼ばれ、文字通り uric(尿の) acid(酸性物質)です。
Q. プリン体は食べ物から摂取するの?
A. 一部は食べ物から流入しますが、大部分は生体内で合成したり、再利用したりします。
尿酸はプリン体の代謝物でした。プリン体(プリン塩基)とは、遺伝子を構成する核酸(DNAやRNA)や遊離ヌクレオシド(ATPなど)の構成要素であり、人体には必須のものです。生体は絶えず新陳代謝をしているため、細胞分裂と古い細胞の崩壊(アポトーシス)を繰り返しており、その過程で核酸や遊離ヌクレオシドの合成・分解が行われています。生体内のプリン体には自身の細胞由来のヌクレオチドが分解されて生じたものと、食物由来のものが混じっています。
(引用: セミナー生活習慣病)
Q. 高尿酸血症とは何ですか?
A. 血清尿酸値が 7 mg/dL 以上の状態をさします。
血清の尿酸濃度が一定の濃度以上に持続する状態が高尿酸血症で、その状態が続くと、体に良くないことがわかっています。
Q. 高尿酸血症はめずらしいですか?
A. いいえ、珍しくありません。
高尿酸血症の発生頻度は男性は20%、女性は5%と言われています。
Q. 高尿酸血症を放置するとどうなりますか?
A. 痛風や腎障害を引き起こすリスクが高まります。
痛風発作は関節の中に尿酸の結晶が遊離して、急性の炎症をきたし持続的な強い痛みを引き起こします。関節のみならず、腎臓の中で尿酸結石や結晶析出が多発して腎機能障害をきたし最終的には慢性腎不全から末期腎不全に至る可能性があります。
痛風や腎機能障害だけではなく、心血管疾患や総死亡リスクも上昇することも報告されていますので、高尿酸血症を指摘されましたら、まずはご相談ください。
Q. 尿酸の結晶ってなんですか?
A. 尿酸ナトリウム1水和物(MSU)で、針状の結晶です
尿酸は、血液中、組織中、関節液中に存在し、血中ではNaと結合して、尿酸ナトリウム1水和物(MSU)の形で存在します。血中における尿酸ナトリウムの飽和濃度は 7.0mg/dL程度です。pHや温度も影響するため、飽和溶解度を超えると溶解しきれない尿酸が結晶となり析出します。実際は、Na以外の血漿蛋白とも結合して溶解すると考えられるため、測定値上は7 mg/dL以上となりますが、7.0mg/dLを超えている高尿酸血症では、結晶の析出が始まっていると考えるのが妥当です。実際の結晶の写真です。
(引用: セミナー生活習慣病)

尿酸ナトリウム1水和物(MSU)の結晶は、写真のように針状の結晶で、この結晶が腎臓や関節面などで析出することで腎機能障害、痛風を引き起こします。
Q. 関節面に結晶ができると、なぜ痛風発作を引き起こすんですか?
A. 結晶自体は悪さをしませんが、剥がれ落ちると痛風発作を引き起こします。
高尿酸血症の状態が続いて、足の指や足首などの関節に尿酸の結晶が沈着します。
(引用: セミナー生活習慣病)
結晶自体は関節内では悪さをしませんが、ある拍子にその結晶が剥がれ落ち沈着すると、これを異物として反応した白血球やマクロファージなどの浸潤が起こり、急性の激しい炎症を引き起こします。これが痛風発作です。
Q. どんな時に痛風発作が起きやすい?
付着した尿酸結晶の一部は関節面から剥がれ落ちる原因として、 一番多いのは急な運動後です。 一般的に足先の小関節は体温が低いことに加えて、関節の動きが激しい部分でもあり、運動は物理的に古い尿酸結晶一部剥がれてしまうため、急な運動後に発作が起こりやすいと言われています。
運動は良くない?
発作が起こりやすいタイミングとして運動後であって、逆に運動は痛風発作のリスクを下げる因子です。痛風発作の発症リスクには、飲酒、肉類・魚介類の摂取、肥満との関連が指摘されています。
Q. 尿酸値が高くなる生活習慣は何ですか?
A. プリン体を多く含む食品の過剰摂取と飲酒、肥満です。
プリン体を多く含む食品は?
魚は健康的なイメージがありますが、プリン体は肉類のみならず、魚介類もプリン体の含有量は多いです。
アルコールに含まれるプリン体量
下図は アルコール飲料100mL中に含まれるプリン体量です。 ウイスキー、ブランデー、焼酎などは蒸留酒はほとんど プリン体を含まない、一方ビールは麦芽中のプリン体が多く含まれるため、他のアルコール飲より明らかに多いのが特徴です。
しかし、 プリン体量の多い少ないにかかわらず、習慣的な過剰飲酒は肝臓におけるプリン体代謝を促進します。尿酸値が高い方は、プリン体OFFのものを選択する、それは良いことなのですが、そもそもの飲酒量が過剰になっていないかをご確認ください。
適正量というのは、個人差もあり特に日本人はアルコールに弱い方が多いですので、
食物由来のプリン体は尿酸産生増加につながる
食物由来のプリン体は、核酸合成に利用されることははあまりなく、大半は肝臓で尿酸に代謝されるため、プリン体の過剰摂取は尿酸産生の増加につながる。またアルコールは肝臓での尿酸産生を促進させ、過剰な飲酒自体が高尿酸血症を引き起こします。特にビールの中に含まれる麦芽はプリン体を多く含むため、尿酸の産生量は他のアルコール飲料よりも多くなります。
Q. 痛風発作はどんな人に多い?
痛風患者数は増加傾向にあり、圧倒的に男性患者に多く、推定患者総数は100万人を超えています。
Q.尿酸値がどれくらい高いと痛風発作を起こしやすい?
A. 血清尿酸値が9 mg/dL以上になると起こりやすい
下の図は、痛風発作の5年間の累積発症率を示したものです。 血清尿酸値が高くなればなるほど緩やかに累積発症率は高くなりますが、9mg/dL以上だと明らかに累積発症率は高くなり、 5人に1人が痛風発作を起こしています。
痛風発作よりも怖い腎機能障害
痛風発作は、強い痛みを伴う辛いものですが、発作は一過性であって生命予後に直接影響する事はありません。痛風よりも怖いのは腎機能障害です。適切な治療を行わず、進行すれば最終的に末期腎不全をきたし透析療法が必要になる場合があります。 前述の通り 尿酸ナトリウムの結晶は腎臓にも析出・沈着します。これらの結晶が腎臓の間質で形成されれば、腎機能障害をきたします。(尿細管や集合管など尿管の太い部分では尿管結石が形成)
[末期腎不全の発症リスクの検討]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15384015/
1993年の集団健診の血清尿酸のデータが得られた20歳以上の48,177人の受診者(男性22,949人、女性25,228人)を対象とした研究で、末期腎不全の発症リスクに対する高尿酸血症(男性で血清尿酸値 7.0 mg/dL [> or = 416 micromol/L] 、女性で 6.0 mg/dL [> or = 357 micromol/L] )が有意かどうか評価したものです。高尿酸血症の有無で、1000人あたりの末期腎不全の発症人数は、男性では血清尿酸値 7mg/dL未満の人では1.22人だったのに対し、血清尿酸値が7 mg/dL以上の集団では4.64 人、女性では血清尿酸値 6 mg/dL未満の人では0.87人だったのに対し、血清尿酸値が6 mg/dL以上の集団では9.03 人でした。
ざっくりと結果を伝えると、男性では血清尿酸値が7mg/dL以上だと、末期腎不全のリスクが2倍になり、女性で血清尿酸値が 6mg/dL以上だとリスクが5.77倍になるということです。
高尿酸血症の定義は「血清尿酸値が7mg/dL 以上」です。女性ではそれを下回る、6 mg/dLでも腎障害のリスクがあることは少し驚きです。
高尿酸血症のみならず、他の異常も治療が必要
さらに高尿酸血症を呈する例では、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを効率に合併しており、これらも腎内細動脈硬化(腎硬化症)、腎糸球体障害(糖尿病性腎症)などをきたすため、さらに腎障害を進行させるリスクがあります。高尿酸血症単独による腎障害というよりも高尿酸血症を含めた生活習慣病全体が腎障害を引き起こすと捉えましょう。
Q. なぜ尿酸値が高くなるんですか?
A. 腎臓からの尿酸排泄が低下するか(排泄低下型)、肝臓での産生が亢進するか(産生過剰型)が主な要因です。
血中の尿酸濃度が高くなる要因は主に2つあると考えられています。腎臓からの尿酸排泄が低下(排泄低下型)、肝臓での産生が亢進するか(産生過剰型)の2つです。健常者での尿酸の体内での出納バランスを考えてみましょう。健常者では体内で1日におよそ700mgの尿酸が肝臓で産生されます。同じ量が体外に排出されますが、その内訳は便中に200mg、尿中に500mg程度で、約70%が尿中に排出されます。
(引用: セミナー生活習慣病)
体内の尿酸量が多くなる原因として
- 腎臓からの排泄量が減少する場合(排泄低下型)
- 肝臓での産生量が過剰になる場合(産生過剰型)
- 両者が合併する場合(混合型)
があります。日本人では産生過剰型12%、排泄低下型 60%、混合型 25%と報告があり、腎臓からの排泄低下を原因とする高尿酸血症が多いです。
Q. 高尿酸血症の治療だけをすれば良いですか?
A. 単独で治療を開始することは稀です。
高尿酸血症単独で治療することは、臨床上稀です。過去に痛風の既往があって、他の代謝異常を生じていない人は高尿酸血症の治療薬のみを服用している人はいますが、高尿酸血症をきたしている方は、メタボリックシンドロームや糖尿病の合併が多く、合わせて治療を行っていきます。高尿酸血症の罹患率は30歳以上の男性では30%に達していると推定されています。
Q. なぜ肥満や糖尿病等を合併することが多いんですか?
A. インスリン抵抗性が関与します
肥満や運動不足があると、肝臓や筋肉において、インスリン(組織内にグルコースを取り込むホルモン)が効きにくくなる状態になります。それをインスリン抵抗性といいます。 インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)と膵臓は代償的にインスリンの過剰分泌を行って血糖を是正しようとし、インスリン濃度が上昇し、高インスリン血症をきたします。 インスリン自体は肝臓や筋肉脂肪細胞に作用して糖・脂質の代謝を調節していますが、それ以外にも全身の組織に作用して様々な代謝調節を行っています。インスリンは腎臓に対して、Naや尿酸の再吸収を促進し、尿酸排泄を減少させる方向に作用しています。 肝臓や筋肉がインスリン抵抗性になっても、腎臓はインスリン抵抗性になりにくいことが知られているため高インスリン血症になると、インスリン作用が増強するため、尿酸の再吸収が高まり排泄が減少してしまいます。
治療について
Q. 症状がなくても治療する必要がありますか?
A. 値の程度や合併症次第では、 無症状でも治療する必要があります。
治療については、基本はガイドラインに則ります。痛風関節炎の既往がある方、痛風結節を有する方は、血清尿酸値 > 7.0mg/dLで治療を推奨されます。腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの合併症がある方は、血清尿酸値 ≧ 8.0 mg/dL で推奨され、合併症がない方でも、血清尿酸値 ≧ 9.0 mg/dLで治療開始が推奨されます。
ガイドラインは一番重要な治療の指針となるものですが、治療開始の判断は個別に行います。
痛風結節とは
痛風結節は、高尿酸血症が長期間持続した場合に、手足の指先の関節や肘膝関節、アキレス腱や耳などに尿酸の結晶が蓄積して炎症反応が起きて生じる肉芽組織です。コブのような外見で、通常痛みはなく、大きくなって破裂するとチョーク状の白い物質が排出されて傷になることがあります。 中年男性に多く認めます。痛風結節がみられる方は、すでに痛風発作を経験されている方も少なくなく、尿酸値が高い方が多いです。
(引用: 皮膚疾患ペディア 日本医師会)
無症候性高尿酸血症について
痛風結節も、急性痛風関節炎も無症候性高尿酸血症といいます。
Q. 少し高いと言われたけど、7mg/dL 未満だから治療しなくて良いですよね?
A. 痛風の既往や痛風結節があれば治療を推奨します。
痛風関節炎を繰り返す患者さんや痛風結節を認める患者さんは、生活指導の実践だけでは体内のMSU結晶(尿酸の結晶)を取り除くことは難しく、痛風の既往や痛風結節を認める患者さんは血清尿酸値 > 7 mg/dLであれば、薬物治療によって血清尿酸値を 6mg/dL 以下を維持することが推奨されます。
Q. 生活改善だけではダメですか?
A. まずは生活改善ですが、長年高値を指摘されている場合、他の併発症がある場合は、一緒に治療したほうが良いと考えます。
高尿酸血症の原因となる、動物性エネルギーの過剰摂取(プリン体の過剰摂取)、アルコール多飲があれば、是正すれば改善が見込めます。肥満があるのであれば、何よりもまず肥満の改善が最重要です。肥満が解消されれば、大幅に改善する可能性があります。
無症候性高尿酸血症でも、やはり高すぎるのはよろしくない(ガイドラインでは血清尿酸値 ≧ 9 mg/dL)ので、まずは生活改善を試みて、3ヶ月経過しても改善が難しい場合は、薬物治療に移行しましょう。今は、腎臓が悪い方にも使用できる薬も出てきています。