インスリンやGLP-1受動体作動薬などの自己注射と同時に始めることが多い血糖値の自己測定。血糖自己測定のことをSMBG(Self Monitoring of Blood Glucose)と略しますが、SMBGを行っている患者さんで、以下のように困っている場面に数々遭遇してきました。
- 血糖測定のタイミングがわからない
- 何のために測定しているかわかっていない
- 測定の回数が多く苦痛である
忙しい医療現場では、測定した血糖値を確認して処方の調整などをして終わる場合が多いです。
このページではSMBGを行っている人向けに測定のパターン、 測定値の見方について解説していきます。
血糖自己測定の手順はここでは取り上げません。
自己血糖測定 SMBGの回数別の測定パターン
月30回測定する人は、1日1回(または2回)のインスリン注射やGLP−1関連薬の方が多いでしょう。
月60回測定する人は、1日2回以上のインスリン頻回注射の人やSMBGを開始して間もない人、注射製剤の変更があった人、低血糖の恐れがあり測定の回数が必要な人などです。
このページでは月30回と60回の測定について解説します。
1型糖尿病など特殊な糖尿病の場合のSMBGになりますので、ここでは割愛します。主治医から直接指導を受けてください。
月30回測定 1日1回のインスリン注射の場合
1日1回のインスリン製剤は24時間以上長く効くインスリンです。持効型インスリンに分類されます。
1日1回のインスリン製剤には以下のようなものがあります。
- インスリン グラルギンBS
- トレシーバ(一般名:デグルデク)
- ランタスor ランタスXR
- ゾルトファイ配合注(トレシーバ / リラグルチド)
- ソリクア配合注(インスリン グラルギンBS/リキシセナチド)
月30回・持効型インスリンの1日1回の場合の測定例
早朝空腹時血糖が適正になるように持効型インスリンの単位を調整します。ですので、基本的に測定していただきたいタイミングは早朝空腹時血糖です。(なぜ空腹時血糖なのかは後述)
早朝空腹時血糖とは
空腹時血糖とは、10時間以上絶食した後の血糖値です。通常、朝食前の血糖値(早朝空腹時血糖)になります。「絶食していれば昼の測定でも良いのでは?」と疑問にもつ人もいるかも知れませんが、日中はコルチゾールなどの血糖値を上昇させるホルモンの影響を受けます。なるべく同じ条件下で血糖値を測定したいため「朝食のいただきますの前」に測定する習慣をつけるとよいです。
持効型インスリンは一度安定すると大きく変わらない
持効型インスリンの単位指示量が大きく変わることはありません。持効型インスリンの単位調整のために早朝空腹時血糖を計測するのですから、指示単位が安定すれば毎日測定する必要が低くなります。余った分で「食後血糖」を測定してみたり、1日4検(各食前+眠前)してみるなども可能です。持効型インスリンの単位指示が固定した人で測定回数を減らしてみたい人は、主治医に相談してみてください。(月20回の測定回数の保険点数もあります)
月30回測定 GLP-1受容体作動薬の場合
GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬(※インスリンを配合しない製剤)には以下のようなものがあります。
- トルリシティ(一般名:デュラグルチド)
- ビクトーザ(一般名:リラグルチド)
- オゼンピック(一般名:セマグルチド)
- マンジャロ(一般名:チルゼパチド)
月30回・GLP-1受容体作動薬の場合の測定例
GLP-1受容体作動薬は、血糖測定の値に応じて投与量を微調節するものではありません。早朝空腹時血糖、各食前血糖、食後血糖(2時間)、眠前血糖などバランスよく測定すると良いでしょう。
月60回測定 インスリン頻回注射の場合
持効型インスリンに加え、食事用インスリンを注射する方に良い適応となります。
※インスリンの導入初期や保険適用内の上限までSMBGをしたい人にも処方されることがあります。
食事用インスリン(超速効型インスリン)には以下のようなものがあります。
- インスリン アスパルト(商品名:アスパルトBS、フィアスプ、ノボラピッド)
- インスリン リスプロ(商品名:リスプロBS、ルムジェブ、ヒューマログ)
- インスリン グルリジン(先発品:アピドラ)
月60回 インスリン頻回注射の場合の測定例
目安として1日あたり2回測定できます。各食前・食後、眠前の7つが測定候補です。
- 朝・昼食前
- 昼・夕食前
- 夕・眠前
- 1日4検(各食前+眠前)
①〜③のように連続する血糖測定だとbetterです。理由として、食事用インスリンの調整に有用だからです。1日の流れを掴むためには④の1日4検もおすすめです。
SMBGの血糖値のみかた
膵臓からのインスリン分泌には2パターンある
膵臓からのインスリン分泌には2種類の分泌パターンがあります。1日を通して持続的に分泌される基礎インスリン分泌、食事による血糖上昇に対応して急速に分泌される追加インスリン分泌の2つです。
持効型インスリンは基礎インスリン、食事用インスリンは追加インスリンに対応
インスリン注射はこの生理的なインスリン分泌に習うように補充します。すなわち、24時間以上長く効く持効型インスリンは基礎インスリン、15分〜30分以内に急速に吸収される食事用インスリンは追加インスリンに対応するように調整します。
持効型インスリンが足りなければ空腹時血糖が上昇する
空腹時血糖はその人の基礎インスリン分泌に相関します。基礎インスリン分泌が足りない人は空腹時血糖が上がるので、基礎インスリンの不足分を持効型インスリンで補充し、空腹時血糖を正常に近づけることが投与の目的です。もし持効型インスリンの量が不足していれば、早朝空腹時血糖は高くなります。
食事用インスリンが足りなければ次の時間帯の血糖が上昇する
食事による血糖上昇を抑えるための追加インスリン分泌が足りなければ、食後の血糖値が抑えられず次の時間帯の血糖が高くなります。(昼が足りなければ夕方の血糖値が上昇、夕が足りなければ眠前が上昇)
食事用インスリン(主に超速効型インスリン)は次の時間帯の血糖値を見て調整をしていきます。ただし、血糖変動は摂取した食事のカロリーや食事時間、糖質の割合、運動の有無、ストレスなど様々な要素の影響を受けます。インスリンの単位の設定は難しいですので、自己流で単位をいじらず主治医とともに単位調整をやっていきましょう。
以上、簡単ではございますが測定のパターンと血糖値の見方について解説しました。日常診療の中では、なかなか時間を取って医師から説明を受けることが難しのが実情です。理解しながら治療に取り組むとまた違った景色が見えてきます。主治医とコミュニケーションを取りながら治療を継続しましょう!
SMBGを導入してから時間が経過した人も、理解を深める一助になれば幸いです。
必要なインスリンの単位は病態によって大きく異なります。くれぐれも主治医の許可なくインスリンの単位を自己調整しないでください。自己調整する場合も必ず主治医の監修のもと行ってください。